KPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)は、マーケティングをはじめとしたビジネスシーンで頻繁に用いられる言葉です。簡潔にいえば、KPIとは「組織の目標達成の度合いを測るための補助的な数値指標の集まり」を意味します。KPI設定のポイントは、2つあります。


1. 「目標達成の度合いを測るための補助であること
例えば、経営者や事業責任者が「今期の売上目標10億円」と掲げたとします。これはあくまで「目標」であり、KPIそのものではありません。KPIとはその目標に対して「どのように」「どの程度」近づいているかを測る補助指標です。

例えば、売上は以下のように分解できます。


売上 = 顧客数 × 平均売上単価


式に基づき、「顧客数の推移」や「平均売上単価の増減」などをKPIとして設定します。
これにより、目標=売上に対する進捗状況や課題を把握しやすくなります。


2. 「計量可能な複数の指標(群)」であること
KPIは「群」であるため、単一指標に頼るべきではありません。
ビジネス環境には、外的・内的要因が複雑に絡み合います。したがって、複数のKPIを用いて定点観測し、それぞれの変化から仮説を立て、打ち手、施策を検証する流れが重要です。


KPIの多角的運用

実際の企業事例として、仮にA社とします。A社が開示しているIR資料では、経営効率を上げる目標として22種類のKPIが設定されています。さらに、それぞれのKPIに対して数値目標が明記されており、過去5年間の推移と達成状況が一目で把握できる資料になっています。
上記の例では、目標は経営効率をあげる、その進捗や課題を探るべく、設定されたKPIは22種類。

このように、
・KPIを複数設定し目標値を明確にする
・過去の推移と比較可能にする
ことで、経営判断の質を高めています。


KPIは企業文化を反映する

目標値設定のスタンスは、経営者の性格や企業文化にも影響されます。
・楽観的な見通しを好み、成長をアピールする企業
・保守的な計画で後に上方修正していく企業
どちらが良い悪いではなく、自社の文化に合ったKPI設計と解釈が必要です。


■デジタル広告のKPI設定におけるよくある注意点

広告施策において、KPIをクリック単価、目標値を現在より下げること、「クリック単価(CPC)を下げること=良い運用」と誤解するケースがあります。しかし、CPCは競合状況やターゲティング内容や関連性等によって決まるため、単に数値だけを下げることが本質的な成功とは限りません。安易にCPCの低下を目標に設定すると、ターゲットがずれてしまい、ROI/ROAS(投資対効果)を下げてしまう恐れがあります。
そのためには、正しいターゲットに届いているか、意図した成果に結びついているかを常に意識しながら、目的に応じたKPIを慎重に設計すべきです。


■適切なKPIの選定プロセス

KPIを設定するには、まずテストフェーズでの数値収集が不可欠です。
測定可能なデータから仮説を立て、以下のようなプロセスを踏んでいくのが一般的です。
・測定可能な数値を試験的に収集する
・目的との関係性から適切なKPI候補を選定
・KPIに対して達成可能(or 挑戦的な)目標値を設定
・定点観測によるモニタリングと改善施策の実行


※「デジタルは正確に何でも測れる?認識

現場でよくあるのが、「そもそも計測環境が整っていない、計測環境を理解していない」という課題です。
たとえば、GA4や広告管理画面、BigQuery、自社サーバーログなど、異なるデータソースでは数値が異なるのが前提です。この差異に驚いたり混乱するのではなく、数値の構造や取得ロジックを理解し、相対変化に注目する視点が求められます。また、昨今のデバイス、ブラウザ、プラットフォームの規制により、全てが計測できているわけではないということです。


■KPIとは、「仮説→検証→改善」サイクルの軸である

KPIは“数値そのもの”ではなく、
なぜその数値を見るのか
その変化から何を読み取るか
という思考こそが実務上の重要ポイントです。他社のKPI事例をそのまま真似しても、ビジネス構造が異なれば意味がありません。自社や自部門にとっての「本当のKPI」とは何か?改めて立ち止まり、見直してみてはいかがでしょうか。